ボートレーサーを志す者たちはみな、「ボートレーサー養成所」の門を叩く。規律の徹底した寮生活の過酷さには、耐えきれず退所する者もいるほど。残った養成員たちは12ヶ月の試練に耐え、自らの夢に向き合いながら技を磨く。憧れを形にするために。
プロになるための12ヶ月
福岡県柳川市にある「ボートレーサー養成所」はボートレーサーを志す者たちの登竜門。1年間の過酷な養成所生活を耐え忍んだものだけがレーサーとしてデビューできる。
1年間の養成所生活は、約50名の同期と共に過ごす全寮制。毎日朝6時に起床し、夜10時には就寝。規律正しい集団生活の中で、学科や整備技術などレーサーとして必要なスキルを徹底的に叩き込まれる。そのうえ、進級試験で結果を残せなければ容赦なく退学となる厳しい世界だ。養成所を去ることは、ボートレーサーを諦めることと同義。養成員たちは毎日神経を張り詰めて課業に臨んでいる。
そんな養成所の入所試験に5度目で合格し、厳しい寮生活を耐え抜いて2011年にデビューした永井彪也(ひょうや)選手。中学2年生の頃、従兄弟の後藤翔之選手に誘われてレースを観戦し、あまりの迫力に魅了され「自分もやってみたい」と、ボートレーサーを志したという。
「ボートレーサーは僕の憧れでした。また、レーサーになって母を支えたかったという気持ちもあります。養成所での12ヶ月は、辛いことも楽しいことも合わせて濃密な時間でした。12ヶ月は長く感じましたが、培った技術を練習の中でフィードバックして成長していく毎日は、とても実りあるものでしたね」
養成所時代の経験が生きた、デビュー戦の6コース
永井選手は養成所を卒業し、2011年11月にボートレース平和島でプロとして初のレースに臨んだ。6艇で行われるレースは、小さい番号ほど内側に近く、大きな番号ほど外側に並ぶ。インコースのほうが走行する距離も少なく段違いに勝率が高い。アウトコースは走行距離も長く、先行者の起こした引き波により減速しやすくなる。
すなわち6号艇がレースにおいて不利な条件になることは間違いなく、ベテランレーサーでも大外の6コースからの勝利は難しいとされている。そして、養成所を卒業したばかりの新人レーサーはレースに慣れる意味を込めて、6号艇からキャリアをスタートするのが暗黙のルールになっている。永井選手も例外ではない。
しかし永井選手は不利な位置でのレースにも関わらず、デビュー戦でなんと2着の成績を残している。これは、養成所を卒業したばかりのレーサーとしては驚くべき成績だ。
「アウトコースから好成績を残せたのは、養成所の同期の存在が大きいですね。僕たちの代はデビュー後を見越して、本番で勝つ練習を徹底的に行なっていました。目的は養成所で勝つことではなく、プロとしてレースに勝つこと。同期全体がその意識を持って訓練に打ち込んでいたんです。だからこそ初めてのレースで2着をもぎ取れたんだと思います」
目標は師匠にグランプリで勝つこと
デビュー早々にポテンシャルを見せつけた永井選手は、1ヶ月後に5号艇6コースから初勝利を飾っている。実戦で経験を重ねて技術を磨き、2017年にはレーサーとして最上級の「A1」クラスへ昇格。2019年には若手レーサーナンバーワンを決める『第6回ヤングダービー』でGⅠ初優勝を果たしている。その後も一流レーサーがしのぎを削るレースに次々と出場し、存在感を示す永井選手。今や若手レーサーの憧れとなり、ファンの期待を背負いながら全国のレース場を駆け抜けている。
そんな彼の座右の銘は『明日はないと思え』。レースで大きなケガをしたとき、ふとこの言葉が浮かんできたという。強気な攻めと虎視眈々と勝利を見据える冷静さが特徴的なレーススタイルは、一回一回のレースに真剣に挑む、永井選手の信条に裏打ちされたものである。
養成所を卒業して10年。これから永井選手が目指す目標は。
「やはり目標は、年末のグランプリに出場することです。もうひとつ付け加えるなら、僕にボートのいろはを教えてくれた師匠の中野次郎選手と共に出場し、なおかつ僕が勝ちたいですね」
「養成所を卒業したから言えますけど、やり残したことはいっぱいあります。プロペラ技術をもっと磨いておけば今より上のステージにいたのかなと思うことも。養成所を卒業して今でこそ大きなレースに出させてもらえるようになりましたが、僕はまだまだ『追う側』。逆境でも果敢に攻めて、ファンのみなさんに喜んでもらえるレースをしたいです」
永井選手はこれからもより高みを目指し、夢の舞台へと突き進むのだろう。目標を達成する日はそう遠くないのかもしれない。
ボートレース芸人・永島知洋に聞いた永井選手
爽やかなルックスが印象的な永井選手。普段はシャイな性格だが、レースでの強気な攻めはファンからの信頼も厚い。師匠との仲の良さも語り草で、ともに今後活躍してくれるのが楽しみだ。大のラーメン好きで知られ、最近では体重管理のため、つけ麺の麺を蕎麦に変えて食べているそう。
登録番号4688 身長165cm
109期 東京支部所属
甘いルックスに注目されがちだが、デビュー僅か3年で初優勝したり、
GⅠ初優出で初優勝を飾ったりと、実力の高さにも定評がある。