原点になったのは「もっと自分を知りたい」という気持ち
デビューから10年になる永井彪也選手が、心の指標にしている言葉は「明日はないと思え」だ――。明日の自分が「いい」と思うはずのことがあれば、明日を待たず今日それをやるようにする。遊びたいなら遊べばいい。“いま、この時を生きる”という連続性を大切にするためのポジティブな戒めになっている。
「ボートレースでも私生活でもいろいろな経験を積んでいくうちに死生観のようなことにも興味を持つようになり、僕の内側から生まれてきた言葉です。人は過去を生きているのではなく、未来を生きているわけでもないから、いまを大事にして、しっかり生きていこう、と。自分の中ではそういう意味を持たせています」
永井選手はもともと本を読む習慣がなく、物事を深く考えるタイプではなかったという。だが、レース場の宿舎には携帯電話などの通信機器を持ち込むことができない。そのため本を読む機会が自然に増えていった。
「サッカー選手の自伝などから入って、食事や睡眠の解説書、経営者の啓発書、哲学関係のものや小説なども読むようになっていきました。本を読むスピードもあがって、いろいろ勉強になりました。そのうち“もっと自分を知りたい”という気持ちになってきて、さまざまなことを深く探っていくようになった気がします」
自分の気持ちをフラットにコントロールしたかった
ボートレーサーの仕事はそもそも“答え探しの連続”だ。出場シリーズごとに使用するボートとモーターは抽選で決められ、モーターの整備やプロペラの調整はレーサーが行う。そのためレーサーは、自分が行った整備はどこが正しく、どこが間違っていたのか……といったことを考え、試行錯誤する。そんな繰り返しの中で整備力や判断力、スタート力、ターンテクニックなどを向上させていくわけだ。
「僕は自分の中で生まれた“なんで?”に敏感すぎるところがある気がします。そのことはレーサーとしてプラスにも働くと思いますが、逆に作用してしまうこともあります。モーター整備はとくにそうですね。部品交換の組み合わせは無限にあるし、感覚としては完成形がわからないジグソーパズルを埋めていくのに近いものがあります。出口が見つからない迷路にハマってしまうと自分がパンクしてしまいかねない。でも、自分との対話を繰り返しているうちにわかってきた部分があるというか……。“危ない、危ない! また迷路に迷い込もうとしている”と気がつくと、ブレーキをかけられるようにもなってきたんです」
そうして成長を続けてきた永井選手は「明日はないと思え」という言葉を胸に抱くようになり、さらに飛躍した。
「緊張しそうなレースやチャンスの場面などでも、できるだけいいパフォーマンスを出したいので、自分の気持ちをフラットにコントロールしたいと考えていたこともこの言葉につながっている気がします。この言葉を心にとどめるようになってからは“最善は尽くしたんだ”という感覚でレースに臨めることが増えたんです」
こうした変化が起きていたのが2019年頃のことだ。この年、永井選手はトップレーサーへの登竜門といえるビッグレース「ヤングダービー」で優勝している。そしてその後も大舞台での活躍が増えていった。
大きな目標はグランプリ。人間としての目標は……
振り返れば永井選手は15歳頃からボートレーサーを目指していたが、ボートレーサー養成所にはなかなか合格できなかった。18歳になる直前に受けた5度目の試験でようやく合格している。
「能天気なところがあって、そのうち受かるだろうなと思っていました。でも、5度目の受験のときには、今回落ちたら就職するか、就職しないで試験のための勉強を続けるか、どちらかを選ばなければならないシビアな状況になっていました。その段階で合格通知が届いたんです。通知を見たときは、やったあ!と思えたし、“自分はやっぱりレーサーになりたかったんだ”と気づけたこともよかったと思っています」
出発地点から始まり、いまも「自分との対話」は続けている。そんな永井選手が目標にしているのは、賞金ランキングTOP18のレーサーだけが出場資格を得て、ボート界の頂点を決するグランプリへの出場であり優勝だ。
「そこをはっきりと意識するようになってからは、一走一走、一日一日がいかに大事かということが、それまで以上に実感できるようになりました。『明日はないと思え』にも通じる感覚ですね。グランプリは大きな目標ですが、レーサーとしては“攻撃的でかつ冷静”というスタイルをもっとうまく表現できるようになっていきたいと思っています。人間としての目標ですか? う~ん、それは常に模索中です(笑)。いまも更新中ですね」
登録番号4688身長165cm
109期
東京都出身
東京支部所属
2019年にプレミアムGⅠ「ヤングダービー」(三国開催)を優勝して、一躍スターダムへ! 同年末にはSG「グランプリシリーズ」(住之江開催/グランプリとは別枠)で準優勝した。