1位への挑戦

ボートレーサーはみな1位の栄冠を目指す。勝利の実績を積み重ねることで、より高いグレードのレースへ挑戦する権利が与えられるのだ。より高みを目指し、レーサーたちは執念を燃やしている。

史上最年少でレディースチャンピオンの座に

ボートレースの試合は「SG、GⅠ、GⅡ、GⅢ、一般戦」の5つのグレードに分かれている。中でも最高峰の「SG」レースは、熾烈を極めるレースで勝ち続けてきたひと握りのレーサーのみが参加することができる。常に1位を目指さなければさらなる高みへ上がることはできないのだ。

レースに優勝した対価として与えられる賞金は、「GⅠ」のレースでは580万から1,600万円、「SG」では最高1億1,000万円にものぼる。ボートレーサーにとって、獲得賞金やタイトルは自らの強さを誇る勲章だ。若きルーキーも老練のベテランも、勝利へ向けて水上をひた走る。

大山千広選手

大山千広選手は、2019年8月に蒲郡で開催された女子レーサーのみのプレミアムGⅠレース「第33回レディースチャンピオン」で、初出場でありながら優勝を飾っている。当時23歳、史上最年少での白星は歴史的な快挙だった。

「優勝したときは、素直にうれしかったです。ずっと欲しいタイトルでしたし、そこから上位のレースへ繋がるものが大きかったので。しかし周りから称賛の言葉をかけられるなかで、『まだまだそんなことないのにな』と自分の意識とのギャップはありましたね。その違和感にモヤモヤする中で、とある先輩レーサーから言われた、『2回獲ってからが本物』という言葉を思い返していました」

まだプレッシャーを感じる必要はない

大山選手のデビューは2015年。デビューしてたった4年でクラス最上級「A1」に登りつめ、今もなお数々のレースで勝利を重ねている。その結果、2020年前期の適用勝率(※)では女子ナンバーワンとなっている。

※ボートレーサーの級別を決めるためにある一定の期間に限定して算出した、特定のレーサーの勝率のこと。

ボートレースは10代から70代まで幅広い世代が集まり、駆け出しのレーサーと実戦を積み重ねてきたベテランが肩を並べて競い合う。大山選手は、そんな数多くのレーサーたちを押しのけ、若干23歳にして名実ともにトップレーサーとなった。観客からの期待やライバルからの対抗意識を一身に背負い、相当なプレッシャーを感じているかと思いきや、本人はいたって冷静だ。

大山千広選手

「レースに出ることへのプレッシャーは、正直あまり感じていません。私はまだ挑戦者の立場なので、並みいる強豪へ立ち向かっていくのにプレッシャーを感じる必要がありませんから。GⅠレースを制したとはいえ、まだ1回目です。ゆくゆくは追われる立場にならないといけないし、そうなったらプレッシャーを感じると思いますが、私はまだまだ『追う』側なので」

SG制覇を成し遂げたい

挑戦者としてさらなる高みを目指す大山選手。女子獲得賞金ランキングでは4,924万4,000円と、2位を1,000万円以上引き離してダントツの1位を突き進む。男女混合では、1,600人を超えるレーサーのなかで30位と、年末に開催されるボートレース競技の最高グレード「SG」の「グランプリシリーズ」へ女子唯一の出場の芽が出てきている。(※2019年11月現在)

男女の垣根を越えて破竹の勢いで活躍を続ける大山選手。しかしながら、これまでの結果に彼女はまだ満足していないという。

大山千広選手

「私は目標を自分のなかですごく高いところに設定しています。GⅠのレースで勝つことでも、レディースチャンピオンでもなく、目標はあくまでもSGレースで優勝することです。今現在の結果に満足せず、自分がどこまでいけるのか。その可能性を楽しみにしてレースに取り組んでいます」

自身の目標に向けて着実に歩みを進める大山選手。若き新鋭がSGを制覇するのは遠い話ではないのかもしれない。

ボートレース芸人・永島知洋に聞いた大山選手

ボートレース芸人・永島知洋

大山選手は若くして周りのレーサーたちからも認められている、かなりの実力者。思い切りのいいレースを展開し、思わぬところで勝利に絡んで我々を驚かせてくれる。高い目標に裏付けられたプレースタイルからは今後も目が離せない。

大山千広(おおやまちひろ 1996年2月5日生)

登録番号4885 身長161cm 
116期 福岡支部所属
ボートレーサーの母親に憧れを抱きこの世界へ。艇界初の母娘ボートレーサーとして、デビュー時から注目を集めていたが、その期待に応える活躍を見せている。 

大山千広選手