なぜボートレーサーに転身したのか。その理由を彼女たちが語る。ボートレーサーになったオンナたち 戸敷晃美選手

ボートレースが仕事になるならいいな、と思った

小学校1年生でテコンドーを始め、全日本強化合宿メンバーに選ばれるなどの実績を残していたなか、ボートレーサーになる道を選んだのが戸敷晃美選手だ。

「14歳上の姉がボートレーサーを目指していた時期があり、子供の頃から頭の片隅にはボートレースという言葉がありました。中学生のとき、テコンドーの遠征で愛知県に行った際、親にボートレースとこなめに連れて行ってもらい、生でレースを見たことで、この競技が仕事になるならいいな!と思ったのがキッカケです。テコンドーでオリンピックを目指したい気持ちもありましたが、テコンドーでは食べていけないだろうなという気もしていたんです」

中学卒業後すぐにボートレーサー養成所に入りたいと考えるほど、ボートレーサーになりたい想いは強くなっていた。しかし両親から「高校には入って卒業してほしい」と言われたこともあり、高校進学の道を選んだ。高校でもテコンドーで優秀な成績を残せていたため、テコンドーの強豪大学に推薦してもらえる条件も満たしていたが、その選択はしなかった。

「早くボートレーサーになりたい気持ちが強かったので迷いはしませんでした。養成所に入ったあとなどに大学に行った高校生時代の友達に会うと、すごく楽しそうだったから、こっちはストイックな日々を送ってるのにって、うらやましくなることはありましたけどね(笑)」

笑顔で養成所当時の思い出を語る戸敷選手

テコンドーをやっていたことでメンタル面などは成長できた

もともとテコンドーを始めたのは家の近所に道場があり、お姉さんが先にやっていたからだそうだ。つらいことがあっても「姉が一緒だったこともあり頑張れた」という。

「練習や試合で恐怖心を感じたことはなかったのですが、道場の先生が怖かったですね(笑)。礼儀作法などにはとくに厳しかったんです。でも、早いうちから礼儀作法を学べたのはよかったと思っています。競技としても大変なところはありました。全国大会に行ったり韓国に遠征したりすると、いつもとは違う環境になるので、常に自分の力を発揮できるようにするのが難しかったですね。減量も厳しかった。テコンドーは体重で階級が分かれる競技なので、同じ階級ではリーチがあるほうが有利になります。そのため、なるべく軽い階級になれるように減量するわけです。成長期には食べたいものが食べられないのに体重もなかなか減らなかった。そういう中でやってきたからメンタル面では成長できた気もします

テコンドーで全国大会や韓国遠征に行った際の写真

テコンドーを続けていたことにより得られたものも多かったということなのだろう。今もテコンドーへの興味は失っていない。

「オリンピックが開催されているときなどは、やっぱり気になりますね。地上波で放送されることは少ない競技ですからインターネットで試合を観たりしています。そういうときには、自分も頑張ってあそこで試合ができるくらいにまでなりたかったという気持ちになることはありますが、ふだんはそこまでは考えないですね。でも、今は自分の息子もテコンドーをやっているので、道場に行くと、またやりたい気持ちになったりはします

落ち込んでいたら、その時間がもったいない

ボートレーサー養成所で1年を過ごす際にも、テコンドーで鍛えた精神力が役立ったのではないだろうか。

「そうですね。ただ、1年間、集団生活するのは初めての経験でもあり、慣れるまでは大変でした。部屋は5人部屋で、整理整頓のルールなどもすごく厳しくて。でも、最初からあまくない1年になるのは覚悟していたので、なんでもポジティブに捉えられていました。同期の仲は良く、楽しいことも多かったですよ」

同期との写真

デビュー後にしても、思ったような結果を出せないなど、うまくいかないことはあった。そうしたときにも落ち込まず、強い気持ちでいられるのはテコンドーの経験が生きているからなのかもしれない。それに加えて両親の存在も大きかったという。

「テコンドーをやっているときは、減量のための食事をつくってくれたり、練習や遠征に送ってくれたり、いろいろやってくれていたので、それに応えたい気持ちもありました。つらいことがあったときなどに母親からは“落ち込むのはいいけど、一瞬だけでいい。落ち込んでいる時間がもったいないから、次のことを考えて、前に進みなさい”と言われていました。もともとポジティブな性格だったところはあるかもしれませんが、親から学べていた部分もあったように思います」

ご家族との写真
減量のための料理の写真

自分の選択に後悔はなく、ボートレーサーという仕事に就けたことは「すごくよかった!」と思っているそうだ。

「テコンドーでは男子とやるのは練習だけでしたが、ボートレースでは男女の関係なく本番で戦えるのがいいですよね。競争心は強いほうなので、その点はボートレースに向いているのかなと思います。ただ、それが事故につながることもあるので、その点は気をつけています。仕事としていえば、頑張った分だけ収入になるので、すごくやりがいがあります。平日が休みになれば、平日に遊びに行けるのもありがたいですね」

ボートレーサーを目指している人に限らず、今、進路に迷っている人のためにメッセージをもらった。

「私自身、ボートレーサーになるという決断をしたあとも、本当になれるかはわからないということで不安はありました。両親にも心配をかけることになりましたが、“なんとかなる”という精神とポジティブ思考で乗り切ることができました。挑戦するのは大事なことですから、皆さんにも、自分が思うままにやってみてもらいたいですね。私もこれからまだたくさんの挑戦をしていきたいと思っています」

力強くこれからの意気込みを語ってくれた

今できないことでも、ひとつずつやれるように努力していく。それもまた自分への挑戦だ。そうして成長を続け、A1級になること、いつかレディースチャンピオンを獲ることを目標にしている。

インタビューの様子をダイジェスト動画でご紹介。ぜひ、ご覧ください!

戸敷 晃美(とじき・あきみ 1996年8月23日生)

登録番号4936 身長160cm 118期 宮崎県出身 福岡支部所属
2016年5月のデビュー。初1着は2018年8月(福岡)。その後、一般男性と結婚して2021年に長男を出産、2022年2月に復帰した。2022年9月、とこなめヴィーナスシリーズで初優出、初優勝! 2025年2月にはプレミアムGⅠのスピードクイーンメモリアルに出場し、GⅠ初1着の水神祭を果たしている。