
エアロビでは「目標」があったからこそやりきれた
全日本学生エアロビック選手権大会チームエアロビック部門3位の実績があり、スポーツ推薦枠でボートレーサー養成所に入所。デビュー7年目となる2022年はGⅠレースに出場するなど、活躍が目立つようになっているのが中田夕貴選手だ。エアロビックを始める前の高校時代からボートレーサーになることを考えていたというが……。
「兄が幼い頃からボートレーサーになることを目指していたので、ボートレースをよく知らないまま、わたしもやってみたいと思って受験したんです。兄は合格しましたが、わたしは6回くらい受けても合格できなくて、短大に進みました。普通に大学生活を送りたい気持ちもあったし(笑)、スポーツ栄養士の資格を取りたかったので、そういう学校を選んだんです。この短大で友達に誘われてエアロビックを始めたんです」

高校時代はチアリーディング部に入っていながらすぐに退部していたが、エアロビックはやり抜いた。その差が生まれたのはなぜなのだろうか?
「違いがあったとすれば、目標設定ですかね。高校の部活は大会で上位を目指すということはなく、普通に楽しんでいる感じだったんです。短大のほうは、毎年、先輩たちが全国大会に出ていたこともあり、全国大会に出場して賞を取るのが目標になっていたんです。やるならちゃんとやりたかったというか、目標があったからこそやりきれたんだと思います。シンプルに楽しかったというのもあるんですけど、この競技は協力してやらないと成功しない技も多くて、うまくできたときの達成感が大きいのもよかった気がします」

しんどいときこそ、笑っていれば頑張れる
エアロビックがいまに生きている部分があるかを聞くと、「う~ん」と悩みながらも、体幹が鍛えられるなど、基礎体力がつけられたかもしれないと振り返る。
「エアロビって、けっこう動きがハードで、競技的にはしんどいんですけど、苦しくても笑顔でやらないといけないんです。それをやっていたから、しんどいときこそ笑っていれば頑張れる、と考えるようにもなりました」
短大時代にも養成所は受けてみたが、やはり合格はできなかった。そのため、企業に就職し、1年半ほど働いた。その時期にエアロビの実績でスポーツ推薦が受けられるかもしれないという話を聞いたのだそうだ。ようやく入所できた養成所では、各種試験などでは苦労をしたものの、つらいという感覚はあまりなかった。

「それまでいた会社がすごく厳しいところだったからかもしれないですね(笑)。体育会系な感じで、何に対しても挑戦を奨励するような会社だったんです。だから、ボートレーサーの試験を受けたいと申し出たときも応援してもらえたんですが、ストイックというかスパルタな面もある会社で、ここで頑張れたならどこでも大丈夫だろうと思っていたんです。実際にこの会社で過ごした日々がその後に生きているんだとも感じています」
レーサーになるまで最短のルートを歩んでこられたのかもしれない
デビュー後、なかなか勝てずに成績があがらなくても、くじけることはなかった。「失敗からも学べることがあるし、先がある」、「周りの先輩たちも支えてくれるし、まだまだ成長できる」と思えていたからだ。
「最初のうちは楽しい、という感覚のほうが強かったんです。でも、4、5年経った頃、事故点ばかりたまって、思うようなレースができない時期があったんです。もどかしい気持ちが強くて、いまの師匠に自分を見てほしいとお願いしたんです。そこから成績が上がりだしたんですけど、A級になってからしんどさのようなものを感じるようにもなってきたんです。オッズを見て自分が売れているのがわかるとプレッシャーも生まれたし、ここから先、もっと上に行くには力が全然足りない。もっと頑張らないといけないという焦りを覚えるようにもなりました。それまでは楽しいという感覚で仕事をしていたのに、意識が変わってきたんだと思います。いまはシリーズごとに目標を立てているし、ちゃんと人気に応えられるように安定した走りができるレーサーになっていきたい気持ちが強いですね」

逆に「もっと頑張れば勝てるかもしれない」 と、自分を奮い立たせる力となるという。
先に目標があれば、つらくても頑張れる! そういう部分も含めてエアロビ時代の経験は今後に生かされていくのかもしれない。
「そうですね。エアロビもそうだけど、一度、就職したのもよかったんだと思います。企業で働いていなかったら、この世界がもっとつらいと感じたかもしれないし、努力次第で収入や生活を変えられるボートレーサーという仕事のありがたみも感じられなかったかもしれません。人との付き合い方など、短大ではなく会社で学べたこともすごく役立っているのも感じます。だからわたしは、レーサーになるまで遠回りしたとは思わないし、なんなら最短といえるルートを歩んでこられたのかな、とも思っています。(進路に迷っている人は)やってみたいことはすべて挑戦してみたらいいんじゃないでしょうか。その先がどこかにつながっていくかは、やってみないとわからないですからね」