ボートレーサーとして、ひとりの人として、彼女たちの「決まりごと」。 女子ボートレーサーたちの“6styles” 遠藤エミ選手

女子レーサーとして史上初のSG優勝を成し遂げた遠藤エミ選手——。自分なりのスタイルを持っているかを聞くと、「決めごとをつくるとストレスになるので、あまり、ここはこうするとか決めておかないんです。決めごとをつくらないのが、わたしの決めごとですね」とのこと。それでもやはり、さすがはトップレーサーだ。自分でルール化しているつもりはなくても、強さをつくりだすための6stylesは持っていた。

Style1.オフでも気になることがあれば先にやっておく

一流レーサーになると、オフは短い。1つの節を戦ったあと、数日しか空けずに次のシリーズに入る場合が多くなる。そこで大切になるのがオンとオフの切り替えだ。
※通常4~7日間のレース開催期間のことを節という。

「シリーズのあと、プロペラのことが気になる場合があるんですが、そういうときは後回しにはしないですね。1日とか2日とか、まずペラを叩きます。遊びに行くのはそれからですね。気になることがあれば先にやっておかないと楽しめないからです。前は旅行することが多かったんですけど、コロナが広まってからは(感染対策はしながら)キャンプに行くことが増えました。リラックスできますよ。何も考えなくていい時間をつくっているので、そういう時間があると、仕事に行ってもオンにしやすいのかなって思います」

Style2.欲しいものがあれば、我慢しないで買うようにしている

オフの期間、他に注意していることはあるのだろうか? あるいは楽しみは?

「胃腸が弱いほうで、食べすぎると体調を崩しやすいので、そこは気をつけてます。体重に関しては、減量の苦労はなく、むしろ増やさなければならないほうなんです。最近サボってるので、もっと筋トレしなくちゃいけないなあ、って思っています(笑)。でも、健康管理の意識は年々強くなっています。賞金で自分にごほうびですか? そういうのはないですけど、服とか欲しいものがあれば、我慢しないで買うようにして、ストレスをためないようにしてますね。モノがたまりすぎてきて、整理しようってスイッチが入ったら、めちゃくちゃスッキリさせてしまうほうです」

趣味のキャンプ用品も、ついつい集めてしまうものの一つ

Style3.オンになるのはレース場に入った瞬間

オフの終盤になり、次のシリーズが近づいてくると、少しずつ心をつくっていくのかといえば、そういうわけではないようだ。

「心をつくっていくとかはしないですね。前検に入るまではオフでいたいからです(前検とは前日検査の略称。シリーズ開幕前日にレース場に入り、モーター抽選やタイム測定などを行う。その後は宿舎に移動し、最終日までは宿舎とレース場で過ごすことになる)。オンになるのは、レース場に入る瞬間ですね。とくに切り替えてるつもりはないんですけど、レース場に入ればレースのことだけを考えてやっています」

Style4.“いいのを引ける!”と思ってモーター抽選に臨む

前検日の抽選によって、シリーズ中に使用するモーターやボートが決まる。モーター整備、プロペラ調整などはレーサー自身が行うが、引き当てるモーターは、それまで結果を出している実績機と、結果が出ていない低調機に分けられる。レーサーとしては実績機を引きたいのはもちろんだ。

「ジンクスみたいなものはとくにないんですけど、“いいのが引ける!”と思いながら、ガラガラを回します。どちらかというと、くじ運はいいほうだと思います。商店街の福引でも、1等とかは引けなくて、参加賞以外のものが当たることが多い気がするんです。連対率とかの数字が悪いモーターでも、走ってみると、そこまで悪くないこともありますね。厳しそうなときはとりあえずプロペラを叩いて、それでもダメだったらモーター整備をやります。自分のやり方を決めているわけではなく、(初日から最終日まで)叩いて乗っての繰り返しです。1節間、全然、仕上げられないこともありますよ。そういう次の節は、前節の失敗を生かそうと考えますね」

実家にある小屋でプロペラを叩く遠藤選手。プロペラ調整は、自分の試行錯誤がそのまま反映されるため、楽しいという。

Style5.レース直前はスタートのことだけを考える

1日に走るレースは1回か2回。そのあいだにボートレーサーは、試運転やプロペラ調整、モーター整備をやっていく。

「わたしはけっこう、ギリギリまでプロペラを叩いていることが多いですね。良くなったら乗らずに本番まで待ちますけど、悪かったら、ずっとバタバタしていることもあります。レース前はスタートのことだけを考えていますね。展開とかも考えますけど、スタート次第というところは大きいし、スタートのことを考えていたら、自然に集中できるんです」

Style6.常に優勝することだけを考えています

スタートタイミングが大きな意味を持つのがボートレースという競技の特性だ。もちろん、3周するあいだ、抜きつ抜かれつはあるし、ゴールするまで気の抜けない戦いが続く。また、予選の点数(着順)によって準優勝戦に進めるかどうか、準優勝戦や優勝戦の何号艇に乗れるかといったことが決まるので、点数計算をするレーサーも多い。

「わたしはあんまり点数計算はしないほうです。計算が弱いほうなんで(笑)、最後の段階とかに記者さんに聞いたりしますね。『何点取ったら(何着だったら)、1号艇になれますか?』みたいな感じで。3着条件になった場合ですか? それでも1着を目指して走ります。3着でいいとは思わないですね」

「レースでは常に1着をとることを考えています」と強く言い切った。

ボートレースでは、最初のターンマークをロスなく回れる1コースが有利で(コース争いがなければ、1号艇のレーサーが1コースに入ることになる)、5コース、6コースなどの1着率はかなり落ちる。6号艇で優勝戦に乗ったときなどはどう考えるかを聞いてみると……。

優勝だけを考えますよ。そこを考えていなかったら、チャンスがあっても掴めないと思うので。やっぱり常に勝ちたい、常に優勝したいと思って挑んでいますから」

インタビューの様子をダイジェスト動画でご紹介。ぜひ、ご覧ください!

遠藤 エミ(えんどうえみ 1988年2月19日生)

登録番号4502 身長155m 102期 滋賀県出身 滋賀支部所属
2008年にデビュー。2017年クイーンズクライマックス(大村)でGⅠ初優勝。2021年にはGⅠのレディースチャンピオン(浜名湖)を制した。SGは2015年ボートレースメモリアル(蒲郡)が初出場。2022年、ボートレースクラシック(大村)でSG初優出、初優勝を果たした。SG優勝は女子レーサー史上初。