感謝 石本裕武

『人に何かをしてもらったら感謝せなあかんよ』という母の教え

2022年11月のデビュー以来、新人離れしたテクニックで快進撃を続け、スーパールーキーとして注目を集めているのが石本裕武選手だ。大学在学中にボートレーサーになったうえ、今も卒業を目指して勉強に励む“二刀流レーサー”としても話題になっている。

「単位を取るためにレース場の宿舎で勉強などしてテストも受けていますが、授業に行ける日は多くなく、大学生としてはそれほど時間をさけていないので、自分では1.5刀流くらいかな、と思っています(笑)。レースの翌日、授業に行くのがつらく感じることもありますが、ここで中退してしまったら、いつか後悔するかもしれないということもあって、卒業を目指しているんです。それとやはり、せっかく大学に入れてもらったのだから、途中で辞めてしまったのでは両親に申し訳ないという気持ちもあります。学費もかけてもらいましたからね」

そう話す石本選手が大切にしている言葉は「感謝」だ。

「当たり前のことですが、自分一人では何もできず、日頃からたくさんの人に支えてもらっています。ボートレースにしても、レーサーや関係者、ファンと、ものすごい数の人たちがいて成り立つものなので、そういうことをしっかりと意識しておき、できるだけ言葉で伝えていきたいと思っているんです。子供の頃から母親に『人に何かをしてもらったら感謝せなあかんよ』と繰り返し言われてきたので、その影響があるのかもしれませんね」

石本裕武選手

応援してくれる人たちがいたからボートレーサー養成所の試験に合格できた

ボートレーサーを目指そうと思ったのは、大学進学後のことだったという。

「『大きなレースがあるから』と友達に誘われて、2019年のSGグランプリを観に行ったんです。すごい歓声の中で石野貴之選手が優勝したところを見て、格好いいなと魅かれました。そのときまで将来やりたいことを見つけられずにいたので、チャレンジしようと決めました」

父親は喜んで賛成してくれたが、母親からは「危ないのではないか」と心配された。それでも、石本選手がボートレーサー養成所の試験に合格することを目指して懸命な努力を続けていると、いつしか応援してくれるようになったそうだ。

「試験は3度目で合格したんですけど、人生で一番じゃないかってくらい頑張っていました。それでも試験に落ちていた頃には、何があかんのやろ!?となっていましたね。陸上部の友達にトレーニングメニューを組んでもらい、小学校から大学までずっと一緒だった幼馴染がランニングから筋トレまで、すべてに付き合ってくれていました。養成所の試験には、“スラックライン”という綱渡りのようなテストがあるんですけど、幼馴染はスラックラインの練習ができる施設にも一緒に行ってくれました。こういった応援してくれる人たちがいたから合格できたんだと思っています」

ボートレーサー養成所の1年間もつらかったが、ボートレーサーになりたいという気持ちが揺らぐことはなかった。

「最初のうちはとにかく教官が怖かったんですけど(笑)、しばらくすると、自分たちのために厳しくしてくれているんだなとわかってきました。1年間一緒にやってきた同期たちは、家族みたいな存在になりましたね。もし嘘をついたとしても顔でバレるくらいで、なんでも気兼ねなく話せる関係です。今も切磋琢磨できていますね。誰かが初1着の水神祭をやったら、すぐに誰かが続くようなところがあるので、今後もみんなで高め合っていきたいと思っています」

石本裕武選手

グランプリを獲ることと人に尊敬される存在になることが目標です

デビュー後、師匠になってくれたのは、石野選手の弟子である藤山雅弘選手だ。つまり、石本選手は石野選手の孫弟子ということになる。

「石野選手は憧れの存在だったので、同じグループになれたのはよかったです。レースに関することだけではなく、気持ちの部分などについても教えていただいています。師匠の藤山選手は僕が何かに困っていたりしたら、こちらが相談する前に察して、助けてくれます。それだけ周りが見えているということでしょうから見習いたいです。教官や師匠、石野選手に自分の気持ちを伝える機会はそんなにないんですけど、当然ながらものすごく感謝しています」

デビュー以来、成績は上がり続け、2023年1月、地元・住之江のルーキーシリーズでは初優勝を飾った。

「地元のルーキーシリーズだったので、大阪支部の先輩や同期なども多くて、みんなに祝福してもらえたのは嬉しかったですね。この優勝を最初に伝えたかったのはやはり家族と師匠でした。大会のあとには打ち上げがあったんですが、家に帰ると両親にはすごく喜んでもらえました。師匠はそのとき別のレース場で走られていたので、そのシリーズが終わったときに連絡すると、次の日に焼肉屋さんで祝ってくれました。両親には、初めて賞金をもらったときにこちらから食事に誘いました。そのときもやはり焼肉でしたね」

石本選手の進化は止まらない!レース後には必ず、レースや整備についてノートに記録しているそうで、その習慣もプラスに働いているのだろう。「面倒に感じたときでも続けられているのは、学生として勉強の習慣ができているからかもしれませんね」というから、二刀流レーサーのメリットだともいえそうだ。

「来期は絶対にA1級にあがりたいし、最優秀新人選手も獲りたいですね。将来的には、ボートレーサーを目指すきっかけになったSGグランプリを獲るのが目標です。それと、師匠のような気配りができるようになって、人に尊敬されるような存在になりたいとも思っています。今はまず、どんなことに対しても感謝の気持ちを忘れないようにと自分に言い聞かせるようにもしています」

石本裕武(いしもとひろむ 2000年8月13日生)

登録番号5267身長165cm
131期
大阪府出身 
大阪支部所属
2022年11月、大学在学中にデビュー。現在も関西大学法学部法学政治学科に籍を置く大学生である。デビュー戦では3着、更にその翌月には初1着。デビュー後、2期目にA2昇級を決める勝率5.69を残すなど、新人離れした成績も話題になっている。2024年1月には初優勝も果たした。

石本裕武選手
石本裕武選手