やらない後悔よりやってみた後悔 堀之内紀代子

チルト3度を「やめたい」と思ったとき、
この言葉に後押しされた

「チルト3度」を武器としてブレイクしているのが堀之内紀代子選手だ。チルトとは、モーターの取り付け角度のこと。チルトは下げたほうがボートは安定すると言われていて、-0.5度や0度でレースをするレーサーが多い。チルト3度にすると伸び型になり、豪快なレースをできることもあるが、乗りづらくなるなどのリスクも大きい。そんな“ハイリスクハイリターンな調整方法”にチャレンジしていることでボートレースファンの支持を集めているのだ。

「当時(2022年9月・蒲郡)、抽選で引いたモーターとプロペラがチルト3度仕様になっていたのがきっかけでした。初日の最初のレースまでに自分向きの調整に戻すのは時間的に難しかったことと、一度やってみたいなという気持ちが心の片隅にあったので、試してみたんです。そうしたら伸びがすごくて(初日は5Rが5コースで1着、12Rが6コースで1着)、1節間そのままで走ったんです。その翌月にたまたま読んだ本に『やらない後悔より、やってみた後悔を選ぼう』という言葉が書いてあって、なぜか、それがすごく刺さったんですよね」

チルト3度へのチャレンジは、次のシリーズ以降も続けた。キャリア的にベテランの域に達しかけている中では、なかなかできない大胆なスタイルチェンジだ。それでも堀之内選手は“やったみた”わけだ。

「最初の蒲郡は良かったんですが、その後はなかなか伸びがこなくて。もうやめたいなと思っていたときに、この言葉を知って後押しされた気がします。そして、蒲郡で私の前にチルト3度をやっていた仲道大輔選手と連絡が取れて、悩んでいることを話したら『1節や2節で決めるのではなく、1年やってみて考えたらどうですか』と提案されたんです」

仲道選手はチルト3度のレースを追求している若手の個性派レーサーだ。キャリアでは20年の差があるものの、その後もプロペラのことなどで連絡をしてきてくれるようになったのだそう。

「自分に得になることは何もないのに、いろいろ教えてくれて、仲道選手には言葉にできないほど感謝しています。年齢なんかは関係なく、心の底から師匠だと思っていますね。師匠であり神です(笑)」

堀之内紀代子選手

喜びが倍増した分、苦しさも倍増した

チルト3度のレースを続けたことで、成績(1着回数)と人気は急上昇した。

「驚いたのはレディースオールスターの投票数ですね。それまではA1級でも出られなかったのに、チルト3度に挑戦した翌年は、かなり上位でいけましたからね。ファンからは『蒲郡で心を鷲掴みにされました』というような声を聞かせてもらうこともあって嬉しかったですね。ただ、喜びが倍増した分、苦しさも倍増しました。私がやっていることは1着か6着かみたいなスタイルですし、実際に1着が増えた分、6着も以前の3倍くらい増えましたから」

それでは今後、チルト3度をやめる可能性もあるのだろうか?

「やってみた後悔もいっぱいありますけど、チルト3度に挑んでいる姿をファンの方たちは評価してくれているのだと思いますから。苦しい時期があっても続けていきたいですね」

堀之内紀代子選手

失敗の数だけ得られるものも多い

話は変わるが、堀之内選手は高校生の息子さんにお弁当を作っており、手作り弁当の写真を公開するSNSもファンの間で人気になっていた。

「ちょうど、先日最後のお弁当を作り終えたところなんですが、意外と達成感はなかったですね。これからは子離れしていかないといけないと思っています」

約3年間、お弁当作りに励んできた。どうしてそれをしたかといえば、小学校の運動会でお弁当を持たせてあげられず、「寂しかった」と言われたことも大きかったようだ。

「小学校の運動会は6回のうち2回しか行けなかったんです。仕事と重なって行くことができなかったのですが、もう少しなんとかしてあげたかったというのが唯一、後悔していることなんです。5歳くらいのときに『なんでウチはお母さんがいないことが多いの?』って泣かれたことがあって。『いい子で待っていてくれているから大好きな仕事を続けていられるんだよ』って話したら、わかってくれたんです。息子が我慢してくれているから私も仕事に行ったら絶対にさぼらないって決めたんです。だから、レース場では仕事と関係ないことはいっさいやらないようにしています」

好きな言葉はもうひとつある。「努力に勝る天才なし」だ。

「SGに出ているような強い人たちはみんなすごい努力してるんだなって感じますし、身近なところでも田口節子選手(同支部85期)なんかはレース場にいるあいだ、ずっと作業してるんです。そういう姿を見ていると、弱い私はなおさら努力しないといけないなって思います。今年も挑戦と努力あるのみですね。チルト3度を続けていれば目先の勝率は落ちるかもしれないですけど、失敗の数だけ得られるものも多いと思っています」

堀之内紀代子(ほりのうちきよこ 1979年9月9日生)

登録番号4011身長158cm
84期
岡山県出身 
岡山支部所属
1999年デビュー。2002年に初優出、2012年に初優勝。チルト3度を始めた2022年には、12月のプレミアムGⅠクイーンズクライマックスにも出場を果たした。GⅡレディースオールスターは第1回大会(宮島)、第7回大会(蒲郡)に出場。2024年2月の第8回大会(びわこ)にも出場予定。

堀之内紀代子選手
堀之内紀代子選手