笑う門には福来る 西山貴浩

笑われるよりは笑かしたい

ボートレースオールスターのファン投票では“得票数2位”が定位置になりつつある人気レーサーが西山貴浩選手だ。ビッグレースのレーサー紹介(開会式)ではコスプレ姿で登場するなどエンターテイナーというイメージも強いが、これまでGⅠレースで2度優勝しているように実力も兼ね備えている。そんな西山選手が大切にしている言葉は「笑う門には福来る」。いかにも西山選手らしいフレーズといえそうだ。

「ボートレーサーになってすぐの頃、僕が結果などに一喜一憂していたのを見た師匠の原田富士男さん(現、ボートレーサー養成所の実技教官)から『とにかく笑っておけ!』と言われたんです。そうしていればいいことがあるから、ということだったので、まさしくこの言葉どおりです。『お前みたいな顔をしているヤツがしかめ面をしていると、怖すぎる』とも言われたんですけどね。そのあとに覚えた言葉は『渡る世間は鬼ばかり』でした(笑)」

鬼というと語弊はあるものの、厳しい勝負の世界でのことだ。レース場で笑っていたりすれば怒られることも少なくはなかった。西山選手自身、「こんなところで笑っていてええんかな」と、迷いを持つこともあったようだ。それでも自分のあり方を変えることはしなかった。これまでずっと、笑い、笑わせながら、やってきた。

「自分が笑うことと、人を笑わせることは区別してないですけど、笑われるよりは笑かしたいですね。うちのオヤジがめっちゃ明るい人間なんですよ。常に人前でおかしなことをやっているのを見ながら育ってきたので、そうするのが当たり前だと思っていました。もともと僕はへこむこともあまりないほうなんです。ケガをしたときも負けたときもそうです。考え込んだりしないで笑っていたほうがラクですよ。それも父親譲りなのかもしれません。うちのオヤジなんかは悩み事がないのが悩みだと言ってましたから」

西山貴浩選手

「感謝と夢」も忘れない

笑っていることで「福」を招くことはできているのだろうか?

「それはアレじゃないですか。それこそ毎年、オールスターに選んでいただける。これは本当にありがたい。大きなレースに出られるようになった最初の頃は、開会式でも僕の前に篠崎元志選手が挨拶すると、女のコたちはキャアキャア叫んでいて。僕が話す番になっても元志~って。『いまはモトシではなくワタシです』と思いながら、やってたんです。バネにもなりましたけど、それがいまでは篠崎兄弟(元志選手と仁志選手)を合わせた票より多くの票を取れたりするようになったんですからね(笑)」

こうした話し方をしていても、篠崎兄弟をはじめ他のレーサーたちといい関係が築けているのはもちろんだ。ファンに対する感謝の気持ちもとても強い。サイン色紙に「感謝と夢」と書くこともある。

「子供に好かれやすいようで、よく手紙をもらったりします。ファンの人からコスプレの衣装が送られてくることもあって、それで開会式で何かをやったりするのをやめられなくなってしまった面もあるんです。応援してもらえることへの感謝は大きいし、夢はやっぱりオールスターを獲ることですね。オールスターはいちばん獲りたいSGです。先の話をすれば、50歳とかを過ぎてもずっとオールスターに出られ続けるレーサーでいたいですね。成績はそれほどでもないのに、なんでオールスターにおるんやろ!?と思われるようなレーサーになりたい。いまは別にしても、ゆくゆくは人気一本でやっていきたいと思っています(笑)」

西山貴浩選手

ずっとやり続けることが大切なんだと思います

インタビューをしていても、サービス精神旺盛で、いたるところにギャグを混ぜてくれるが、本質的にはさまざまなところで努力を惜しまない誠実なレーサーであるのは間違いない。

「努力? 努力ってなんですかね……。ただ好きなんですよ、ボートが。自分では、僕がいちばんボートが好きなんだろうな、と思っています。やるべきことをやっているだけなんで、それを努力と呼ぶべきなのかはわからない。単にしゃべるばっかりではオールスターに行けないでしょうし、ある程度の結果は出していかないと」

お酒好きで、「出された酒は全部飲む」をモットーとしている、ともいう。その分を取り返すためなのか、日頃からずいぶん走り込んでもいるようだ。家では「嫁の顔色を見ながらゴマをすっているだけでなく、プロペラゲージも擦ってます」とも話してくれた。測定用具であるプロペラゲージを作るのは、レース場でのプロペラ調整を効率的に行えるようにするためだ。ボートレーサーはプロペラ調整、モーター整備を自分で行うが、成績が悪いモーターに当たったときなどは整備作業に追われることになる。そうした作業に汗する西山選手は、ピットで頻繁に見かけられるのだ。決して笑ってばかりいるわけではない。

「僕はたいがい、良くないモーターを引くんです。(そうすると整備士と相談しながら自分で整備していく必要があるので)全国の整備士さんたちとは、むちゃくちゃ仲良くなれています。整備士さんの家族構成とか娘さんの名前とかまで知ってますからね(笑)。そういう関係になれるのはありがたいことですよ。……どんなことでもそうですけど、ずっとやり続けることが大切なんだと思います」

西山貴浩(にしやまたかひろ 1987年5月15日生)

登録番号4371身長169cm
97期
福岡県出身 
福岡支部所属
2005年のデビュー。2020年の徳山ダイヤモンドカップなどGⅠ2優勝。SGでも、2020年のグランプリ(平和島)など4度優出している。2022年には、交通事故に際した人命救助を行い、大庭元明選手、森高一真選手とともに警察署から感謝状が贈られた。そのときには「人として当たり前のことをしただけです」とコメントしていた。

西山貴浩選手
西山貴浩選手