自然体 香川素子

ひとはひと、わたしはわたしなんです

2022年8月、女子レーサーの頂点を決める大会、レディースチャンピオンを制したのが香川素子選手だ。デビュー25年、45歳で手にした初のビッグタイトルだが、「ただビックリしているだけ」と本人は振り返る。無欲にも近いマイペースで勝ち取った優勝だったといえるかもしれない。そんな香川選手を象徴する言葉が「自然体」だ。

「レディースチャンピオンのときは、予選が終わった段階で鎌倉涼ちゃんと同じ得点率(同率3位)になっていたのに、準優勝戦が何号艇になるかも確認しないでいたんです。そしたら、夜の宿舎で今井美亜ちゃんから、『明日の準優は1号艇か2号艇か、どちらになったんですか?』って聞かれて、『いや、知らへん』って答えたら、『え~、気にならないんですか!? 考えられへん』って言われたんですよ。わたしは1号艇か2号艇のどちらかに乗れるならそれでええやんって思ってたんですけど、普通はそうじゃないみたいですね(笑)」

1コースが有利とされるボートレースでは、1号艇か2号艇のどちらに乗るかの違いは大きい。ましてビッグレースの準優勝戦だ。自分の艇番を気にしないというのは確かに考えにくい。なりゆき任せなところがある香川選手だが、準優勝戦は上位着順差で1号艇になった。そのレースを逃げ切ることで優勝への道を開いたわけだ。

「運気というか流れのようなものもあるので、気合いで勝てるというものではないですからね。優勝戦のあとのインタビューで『(同じ支部の)遠藤エミ選手のSG優勝が刺激になったところもありますか?』と聞かれて『いや、まったく』と答えたら、その場面が放送で流されていたんですよ。変な誤解をされそうだから、やめてやめて!って思いました(笑)。エミがSG獲ったからといって、わたしが獲れるとも思わないし、わたしはわたしだからという意味だったんですけどね。わたしはいつもそういうスタンスなんです」

香川素子選手

“天才”に比べれば自分なんて普通の人や

子供の頃からどちらかというとマイペースだった香川選手だが、この世界に入って横西奏恵さんと出会ったことも大きかったようだ。2012年に引退しているが、“最もSGに近い女子レーサー”と言われていたレジェンドだ。

あるとき、スタートの話をしていたら、スタート100m手前で大時計の針を見ていないのもわかったので、『見たほうがいいで』って言ったら、次の日から見るようになって、『むちゃくちゃスタートしやすくなるな』って、言っていたんです。天才っていうのはこういう人なんやろうなと思いました。そういう人がそばにいれば、自分なんて普通の人や、と思いますから。変な気負いがなくなった気もします

2016年、2017年に香川選手は事故点が増えていたので、それ以上、事故点を増やさないようにするため、強引な勝負には行かない6コースからのレースを続けていたこともあった。このことをきっかけにしたレーススタイルの変化もあったようだ。

「このときすごく冷静にレースを見れていて、あそこのスペースが空いてるのに、なんで他の人は差しにいかんのやろうなとか思うことが多かったんです。それまでのわたしはとにかく握ればいい(強気でマクリに行けばいい)と思っていたけど、展開をよく見て差しも増やすようになったんです。

香川素子選手

息子に恥じないように生きていかなあかん

それ以前から長くA級で活躍していた香川選手だが、この頃からさらに活躍が目立つようになり、SGも含めたビッグレースの出場機会を増やしていった。40歳を過ぎての覚醒だったともいえる。

「その頃に息子もレーサーになったので、なおさら頑張らなあかんなとも思ったんです。とりあえず、まだ息子には負けられへんというのはあるし、息子からは刺激を受けていますね」

2019年にデビューした香川颯太選手のことだ。“母親―息子の親子レーサー”として話題にもなっている。

息子に恥じないように生きていかなあかんとは前から思ってたんですよ。『おかん、やばいな』とか言われたりせんようにって(笑)。同じ業界に来たから、余計にちゃんとしないとあかんなって気を引き締めました。いまのところ、わたしのことは凄いという目で見てくれているようやから、それを裏切れないというのもあるんです」

「今後は息子に任せていきたいし、わたしはもう終活なんです」とも笑うが、これからもまだまだ大きな活躍が期待されるのはもちろんだ。

「自分では、もう45歳なんだからわきまえなさいと思ってるんですけどね(笑)。こういう話をすると、ファンの人には、もっと欲を出せと言われるかもしれませんけど、わたしなりに毎レース、頑張ってはいるんです。水をかぶるのも嫌いやし(笑)、人の後ろは走りたくないから。でも、いいモーターを引いたからといって自分に合うとは限らんし、風向きがちょっと変わっただけでも展開に影響するように、どうしたら勝てる、という答えはない世界ですからね。これからも流れに身を任せながら50歳くらいまでは自然体でやっていこうと思っています

香川素子(かがわもとこ 1977年1月8日生)

登録番号3900身長156cm
80期
大阪府出身 
滋賀支部所属
1997年のデビュー。2005年に初優勝。GⅠレースは、2002年の徳山レディースチャンピオンが初出場で、2022年の丸亀レディースチャンピオンで初優勝。2020年には住之江オールスターでSG初出場も果たした。息子である香川颯太は125期。2022年のびわこお盆開催には親子で出場。初めて同じシリーズを走り、できる限りのアドバイスをしていたようだ。

香川素子選手
香川素子選手