うまくいかない時ほど、自分を変えたい気持ちは
強くなる
2021年、45歳になっていた原田幸哉選手は、マスターズチャンピオンに初出場して初優勝。その後にはボートレースメモリアルを勝ち、12年ぶりのSG優勝を果たした。2022年は5月にボートレースオールスターを優勝。2年連続のSG優勝となったうえ、年末に地元・ボートレース大村で開催されるグランプリの出場をほぼ確実なものとした。27歳でSG初優勝を決めるなど若い頃から活躍していた原田選手だが、ここにきてこれだけの結果を残せているのはどうしてなのか? 大切な言葉は「向上心」だというが、そこにつながりはあるのだろうか?
「いつから向上心という言葉を口にするようになったかは覚えてないんですけど、初めてSGを獲ったあとも、自分の思いどおりに1年を過ごせたことはなかったし、“まだ足りない! もっと上を目指したい!”という思いが強くなっていたんです。30歳前後から向上心という言葉を大切にするようになっていた気はしますね。何かのときにこの言葉を思い出すというより、常に思っていることなんです。うまくいかない時期が長くなったときほど、自分を変えたい気持ちは強くなります」
“もうSGは獲れないのかな”と考えたことはなかった
常に第一線で活躍してきた原田選手だったが、2013年にはひとつの転機をむかえた。整備不良(ロワーナットという固定金具の脱落)があったことから3カ月間の出場停止処分を受け、実質1年半、SGレースにも出場できなくなってしまったのだ。
「出走回数が足りずにB級に落ちることになるし、最短で大きな舞台に戻るためにはどうすればいいかということを、やってしまった次の日から考えていました。比較的最近の話でいえば、そこがいちばんの挫折だったかもしれないですね。普段はあまり深く物事を考えずにやってるほうなんですが、このときは別でした。1年半、SGに出られないブランクができるなら、モチベーションを保つためには何かの目標が必要だし、自分を成長させて帰ってこないと意味がないな、と考えたんです。それで一般戦を走りながらスタート力を磨いて戻ってこようと決めたんです」
もともとスタート力には定評があったが、その時期からはさらに一段階上のスタートを決めるようになっている。それが2021年からの快進撃につながっている部分もあるのだろう。
「昔から変わらず向上心を持ってやってきているつもりですけど、いちど歯車が噛み合うと、こんなにうまく結果がつながっていくものなんだなと自分でも驚いています。12年ぶりのSG優勝と言われて、12年も前だったのか!?と思いましたけど、自分の中では“もうSGは獲れないのかな”とかって考えたこともなかったんです。でも、ファンの方に長くアピールできていない焦りはあったので、プレミアムGⅠのマスターズチャンピオンを勝ってそれが払拭されたのも大きかったのかな、とも思います」
年齢のことはまったく気にしておらず、フィジカル面で影響が出ていると感じたこともないそうだ。
「ただ、若い頃に比べればイケイケではなくなってきたので(笑)、一か八かのターンとかはしなくなってきています。若いレーサーがリスクを背負ったターンをしているのを見ると、昔は自分もああいうふうに行ってたな、と思うことはあるんです。そういう部分に限らず、自分にないものを持っている人を見れば、吸収していかなければならないとは常に思いますね。でも、昔に比べて視野は広がってきているし、自分自身、以前より能力はあがっていると感じています。これからも、これまでに残してきた以上の結果は残していこうと思っているし、できるつもりでいます」
どんな状況でも最善を尽くせる自分をつくりあげる
大村でのグランプリについては、開催が決まった2021年から意識していたのはもちろんだ。
「決まったときから2022年は勝負の年になると思っていました。昔から松井繁さん(グランプリ23回出場3優勝)には“1年をトータルで考えろ。一喜一憂するな”と教えてもらっていながら、一喜一憂している部分があったんですけど、2022年は1年をトータルで考える意識を強くしています。オールスターの優勝は若い頃からの夢だったので、達成できてすごく嬉しかったんですけど、それによってグランプリが当確になったので(グランプリの出場レーサーは獲得賞金額で決定する)、ダブルで嬉しかったですね」
グランプリに出場できることがほぼ決まったといっても、そこで気持ちをゆるめることはあり得ない。
「2021年は勝負弱いところが出てしまったというか、久しぶりのチャンスだと思ったこともあって自然体で臨めなかった(2021年のグランプリは住之江開催。4年ぶり6度目の出場となったが優勝戦には進出できなかった)。ちょっと考えすぎちゃったようなところがあって、いつもの自分を出し切れなかったのかなとも感じたんです。グランプリは短期決戦なので、2021年の経験もふまえて、どんな状況でも最善を尽くせる自分をつくりあげていかなければならないと感じています。とくにメンタル面が大きいですけど、エンジンやプロペラを合わせる能力、センス、ひらめきもそうですね。とにかく大村での開催はこの先あるかどうかはわからないので、そういう舞台に立てる喜びを感じながら最高のパフォーマンスをファンの皆さんに見せたいなと思っています」
登録番号3779身長172cm
76期
愛知県出身
長崎支部所属(デビュー時は愛知支部所属)
1995年のデビュー。ボートレーサーになるための“準備期間”として中学卒業後に海上自衛隊で訓練を積んでいた異色のレーサー。2000年のびわこ新鋭王座(現ヤングダービー)でGⅠ初優勝し、GⅠは通算18優勝。2002年の平和島ダービーでSG初優勝し、SGは通算5優勝。実績豊富なトップレーサーだ。