「弱い自分」が出てきたときに失敗する
2022年3月にSGボートレースクラシックを優勝したのが遠藤エミ選手だ。レースのグレードで最も高いのがSGで(SG、GⅠ、GⅡ、GⅢ、一般戦の順)、女子ではこれまで2人しかSG優勝戦に進出できたレーサーはいなかった。今回3人目となった遠藤選手は“女子レーサーとして史上初のSG制覇”を果たしたわけだ。ボートレース70年の歴史を変える偉業といっていい。それにより大きな注目を集めている遠藤選手が、ボートレーサーとしてデビューする以前から大切にしている言葉が「克己(こっき)」だ。
「克己は、高校1年生のとき、ソフトボール部の監督に教えてもらった言葉なんです。己に打ち克つということですね。最初は、そういう言葉があるんやな、というくらいの感じだったんですけど、ソフトの試合でも、弱い自分が出てきたときに失敗する、というのがわかってきて、心に響くようになってきたんです」
この言葉を知ったときから現在に至るまで、“心の弱さに負けない”ことは、遠藤選手にとっては一貫して大きなテーマになっていた。
「常にこの言葉を思い浮かべているわけではないんですが、ずっと自分の弱さに負けないことを考えながらやってきた感じです。ボートレースでも、その部分がいちばん大事だと思っているんです。気持ち次第でどんなレースができるかは変わるし、ターンとかにもあらわれてきますから」
SG制覇までの苦しかった心の戦い
ボートレースクラシックの6日間もまさに“心の戦い”になっていた。
「本当に気持ちだけでしたね。ちょっと仕上がり(プロペラの調整など)に不安があったりもしたんですけど、自分を信じて不安を打ち消し、“強い気持ちでレースに行くことが大事だな”と、あらためて感じました」
これまでにも大舞台は何度となく経験してきていたが、やはりSG優勝戦のプレッシャーは、これまで経験してきたプレッシャーとはレベルが違った。予選を1位通過して、準優勝戦→優勝戦と続けてポールポジションといえる1号艇に入ったのだから、なおさらだった。
「優勝戦前日には、周りのみんなからは『準優のほうが緊張するし、明日は大丈夫だよ』とか言ってもらったりしてたんですけど、いや、やっぱり今日のほうが緊張してるなあ、って(笑)。レースが近づいていくにつれ、どんどん緊張は高まっていったんです。その緊張感に負けなかった理由ですか? う~ん、やっぱり、プレッシャーから逃げようとしないで、向き合っていたからだと思います。レースになってしまえば、もう集中して行くだけです。気持ちで負けてないことで、いい集中ができるんじゃないかな、とも思いました」
その集中も、いまだからできたことだといえそうだ。
「数年前だったら、できなかっただろうなと思います。今回、強い気持ちになれたのは、これまで経験してきたことすべてが生かされたからだと思います。大きい舞台で優勝できたこともあれば、悔しい思いをしたこともあります。そういう経験のすべてが自分にとっての宝になっています」
わたしの目標は「強くなること」
SGを優勝したことによる周りの反応は想像を超えていた。「それに自分がついていけていない」とも感じていたそうだ。これからは常に“SGウイナー”として見られるので、そのプレッシャーも強くなるはずだが……。
「そうですね。でも、これからもいままでどおり、自分が思うようにやっていきたいですね。自覚が足りないのかもしれないですけど、SGを獲ったからどうとかいうんじゃなくて、変わらず上を目指していきたいんです。ある人から『いろいろ言われて大変だろうけど、エミちゃんはエミちゃんらしくやっていけばいいんだから』と言ってもらえたのがすごく嬉しかった。自分で意識していなくても、(周りの反応などを)苦しく感じていた部分があったのかもしれないですね。わたしの目標は、強くなることなので、それは今後も変わりません」
自分に負けず、プレッシャーに負けないような強さを求め続ける。その点でブレることのない芯の強さをつくりだしているのが「克己」という言葉であるにはちがいない。
「本当にそうなんだと思います。人間ってみんな、もともと弱いじゃないですか。それをなんとか強くしようとして努力する……。わたしもいろんな本を読んだりはしますけど、読んだからといって強くなるわけではないとも思ってるんです。とにかく経験を積んでいき、自分に自信をつけていくことがすべてのような気がします」
登録番号4502身長155cm
102期
滋賀県出身
滋賀支部所属
2008年にデビュー。2017年クイーンズクライマックス(大村)でGⅠ初優勝。2021年にはGⅠのレディースチャンピオン(浜名湖)を制した。SGは2015年ボートレースメモリアル(蒲郡)が初出場。2022年、ボートレースクラシック(大村)でSG初優出、初優勝を果たした。SG優勝は女子レーサー史上初。