蟻の思いも天に届く 實森美祐

落ち込みそうなとき、自分に言い聞かせる言葉

ボートレースの次世代を担う若手有望レーサーとして、女子ではただ一人、2022年のトップルーキーに選出された實森美祐選手。彼女が大切にしている言葉は「蟻の思いも天に届く」だ。デビュー後少しずつ成績が良くなってきた中、2019年にはケガで3か月間欠場を余儀なくされた。復帰後、優勝戦まで勝ち進んでもなかなか優勝できずに落ち込んでいた時期もあったが、そういう中で「やる気を出せる何か」を求めていて出合った言葉だ。

「なんか響いたんですよね。自分のような新人は蟻みたいなものだけど、一生懸命やっていればいつかはすごいレーサーになれるかもしれないって。もっと頑張ろうと考えるきっかけになったんです。結果がついてこないシリーズ中でも少しでも着順をあげられるようにするため、この言葉を自分に言い聞かせながらやっています」

2022年前期には最上位クラスのA1級に昇級できた。彼女の想いは実を結びつつあるといえるだろう。

でも、自分ではまだまだA1の力はないと思っているし、A級になった今がいちばん、もがいています。成績も落ちてきているので“もっと頑張らんと!”って感じですね」

A1級になると男子トップレーサーと戦うGⅠレースへの出場機会も出てくる。實森選手も芦屋周年、中国地区選と男女混合GⅠレースに出場しているが、そういうところで壁にぶつかっているともいえそうだ。

「GⅠのときは、レース場に行くまではめっちゃ緊張してたんですが、始まってからはウキウキと楽しめました。すごい人たちのレースを間近で見れるし、一緒にレースもできる。何もかもが勉強でした。でも、成績的にはかなりきつかったので、このときもやっぱり『蟻の思いも天に届く』って言い聞かせる感じになっていたんです。だけど、またああいう場所で戦いたいし、もっと力をつけてこれからもA級でいたいですね」

實森美祐選手

とにかくメンタルが弱くて、マイナス思考になりやすいんです

實森選手は高校1年生のときボートレーサー養成所の一次試験で2度落ちたことでレーサーになるのをあきらめかけた。だが、高校を卒業する間際に「もう一度、夢を追いかけよう」と再挑戦を決意してレーサーになっている。

ものすごい負けず嫌いなんですが、努力や我慢は得意じゃないのかもしれません。子どもの頃、バカみたいに1日中、自転車に乗る練習をしていた記憶があるんですけど、勉強とかも一夜漬けばっかりでしたし、努力するのは1日が限界というタイプのような気もするんです(笑)。でも、もう一度、養成所を受けようと思い直したときにはジムに行って、毎日走るようにもしてました。本当に好きなことのためなら、1日だけじゃなく、もっと頑張れるのかもしれないですね。レースは好きだし、この仕事を選んで大正解だったと思っています」

實森選手というと、明るいキャラクターというイメージが強い。だが、本人に言わせれば、「とにかくメンタルが弱くて、マイナス思考になりやすい」とのことだ。

「レースで結果を出せなかったり、失敗したりすると、すぐに自信がなくなり、ものすごく不安になっちゃうんです。その自信のなさがレースにも出ちゃうんです」

そういう性格だからこそ、自分を勇気づけるための言葉を探す気にもなるのかもしれない。

實森美祐選手

不安もあるけど、ぶっちゃけ期待のほうが大きい

実は『生きてるだけで丸儲け』も好きな言葉なんです。マイナス思考に陥りかけたときにも、生きていられるよりすごいことはないんだからって考えるようにしてるんです。いい成績が取れないシリーズ中ですか? そういうときにこの言葉を思い出すことはないですね。そう考えてしまっては舟券を買ってくれている人にも失礼なので、そういうときにも一節のあいだずっと、なんとかしようとしています」

メンタル面を強くしたいので自己啓発系の本を読んだりもしているそうだが……。「そういう本を読んでいてもあんまり頭に入ってこないんですよね」と實森選手は笑う。どんな言葉が心に響くかは人それぞれなので、裏表のない彼女らしい返答だ。“これからどういう人間になっていきたいか”を聞くと、こう答えてくれた。

思いやりのある人になりたいですね。KYって言われることもあるんですけど、自分ではそう思っていなかったんです。そういうところがKYなのかもしれないですけどね(笑)。あとは有言実行できるようにもなりたいです」

5月に開催されるボートレースオールスターでSG初出場も決まり、レーサーとしての目標も語ってくれた。

「SG出場はちょっと信じられない夢みたいな感じです。地元開催(ボートレース宮島)なので、なんとか頑張りたいと思っています。期待と不安の両方がありますが、いまはぶっちゃけ、期待のほうが大きいですね。今後はまだ出たことのないレディースチャンピオンやクイーンズクライマックスに出るのが目標……というのではダメなんでしょうから、そういうところで優勝するのがレーサーとしての目標ですね」

實森美祐(さねもりみゆ 1996年9月11日生)

登録番号4963身長154cm
119期
広島県出身
広島支部所属
2016年のデビュー。2022年前期にA1初昇級。2022年トップルーキーにも選出された。5月のボートレースオールスター(宮島)でのSG初出場が決まっている。

實森美祐選手
實森美祐選手