一瞬だけじゃあかん。1日1日を大切に生きていきたい
2021年末には艇界最高峰のレースであるグランプリ出場も果たした丸野一樹選手が大切にしている言葉は「1日1日一生懸命」――。高校時代の書道の時間にも、この言葉を選んで書いたことがあるそうだ。
「それ以前は“一瞬に集中する”という言葉を使っていましたが、一瞬だけじゃあかんよなと思って(笑)。1日1日を大切に生きていきたいということから、この言葉を心がけるようになったんです」
丸野選手はもともとプロ野球選手を目指す野球少年だった。だが、身長の伸びがピタリと止まった頃、身長が低いというコンプレックスをプラスに転化できるボートレーサーを目指そうと決意した。野球部の活動を終えた高3の夏休みから2学期の最初にかけての1ヶ月半で72キロあった体重を55キロにまで落としたという。
「このときはこんにゃくゼリーやサラダくらいしか食べず、サウナスーツを着てずっと走っていました。人生の中でもいちばんしんどい1ヶ月半になりました。それでも僕の中では、やめるという選択肢はなかった。周りの人たちにレーサーになることを宣言していたので、やるしかない状況になっていたからです。もう一度やれと言われても絶対にやりたくないですけどね(笑)」
「努力は報われる」のでない。「正しい努力は報われる」
ボートレーサー養成所での成績は芳しくなかったが、人一倍努力を重ねて卒業した。デビューは2011年。比較的順調に成績は伸ばせていたが、それでも丸野選手は“このままではダメだ!”と危機意識を強くしていた。
「うぬぼれですけど、自分はもっと強くなれると思い込んでいたんです。でも実際は、思ったような結果を出せていなかった。それで、このまま人と同じようなことをやっていたのでは、当たりさわりのない成績のレーサーになっていくんじゃないのかと思ったんです。野球でも養成所でもそうでしたが、僕はうまくできるようになるまでに時間がかかる。運動神経も良くないし、センスがあるわけでもないので、人より抜きん出ようと思ったら、数をこなす必要があります。そういう考えは小さい頃からあったのかもしれません」
2019年から丸野選手は、高校時代から知っているトレーナーに協力してもらい、ボートレースに生かせる独自のトレーニングを考案していくことにした。自分の体を実験台にしてトライアンドエラーを繰り返しながら形にしていったのだ。
「“努力は報われる”と言われますけど、僕はそうではないと思っています。ただ努力をすればいいわけではない。“正しい努力が報われる”という考え方です。努力にも正解不正解はあるので、努力がムダにならないようにするため、いま自分がやってることが身になることなのかは常に自問自答しています」
復帰に向けて1日1日、すべてを費やした1ヶ月
独自のトレーニングを取り入れてから丸野選手の成績は大きく向上した。2021年には最高グレードのSGレースのひとつであるオーシャンカップで初日ドリーム戦に乗ることが決まっていたほどだ。だが……。レース前の試運転中に転覆した際、3本の指を骨折するアクシデントに見舞われた。全治3ヶ月という診断だった。「いったい自分は何をしてるのか……」と絶望したが、下を向かず、復帰を早めるための努力を続けた。そして、事故の1ヶ月後に開催されたSGボートレースメモリアルで復帰を果たすことができたのだ。そればかりか、この大会で優勝戦に進出する活躍をしたことで年末のグランプリ出場につなげられている。いったいどうしてそれが可能になったのか?
「復帰までの1ヶ月間は復帰するためだけにすべてを費やしました。朝から晩まで休まずリハビリを続けて、それでなんとか間に合ったんです。大会の6日間は、日に日に成長できている感覚にもなれていました。振り返ってみれば、1日1日一生懸命を本当の意味で実践できた1ヶ月であり6日間だった気がします」
いっさい妥協のない正しい努力。それが丸野選手が走り続ける原動力になっているのは間違いない。
「いまはまだ結果を出せてない焦りがありますが、これから45歳くらいまでの15年間、“ボート界を自分の時代にする”くらいの気持ちでやっていこうと思っています。1日1日をどう過ごしていくかで未来が変わっていくんだということは身をもって実感しましたからね。いま自分に何がやれるかはいつも考えています。レース前に敬礼をしてボートに乗り込むときには、たとえそれが最後のレースになったとしても思い残すことがないようにしたい、と。自分では常にそれだけの準備をしているつもりです」
登録番号4686身長166cm
109期
京都府出身
滋賀支部所属
SGレースの優勝はまだないが、GⅠは4優勝。デビュー10年のキャリアでは誇れる成績だ。